高田元太郎のコラム1997

 

主催者もどうせ人が集まるのは９時半頃からだろうと思ってこれから買い出しに行くところだったりもした。招かれた方もわざわざ気をつかって遅れてくるのである。

まだパーティーが熱くなってないときに現れて気まずい雰囲気になるのはイヤだしね。だから「あいつがくるのは９時ぐらいだろうから俺は９時半に行こう」、とかお互い牽制しあってどんどんパーティーの開始時間は遅れていくのである。

一度コロンビア人の主催するサルサ・パーティーに呼ばれた。僕は「８時に始まるって言ってたから、奴らはだいたい１０時に集まって一杯やりながらいろいろお互いの近況報告をし終わるのが１１時頃。

それからダンスが始まって１２時頃加熱していき、これぐらいの時はみんなイッちゃってるだろうから少しみんなが疲れてきたぐらいの頃に行こう。」と考えて、自宅で夕食をとりギターの練習をして長丁場のパーティーに備えて仮眠をとりシャワーを浴びて、そしてコロンビア人の家に着いたのが夜中の２時半。ダンス・パーティーは、やってたが誰も知ってる奴らがいない。

聞くともう音楽院のメンバーはパーティーを終えて帰ってしまって別のダンス・パーティーが始まった後だったのだ。それでも僕は朝まで残って踊って帰ったけどね。

「まあシャワーでも浴びて目を覚ませ」と言われていうとおりにする。シャワーを浴びて演奏会用の服に着替え終えるともう８時５分前だった。

　そうしたら主催者にダイニングに通されて「それじゃあお茶でも飲もうか」といわれてトーストやカフェ・コン・レッチェを用意してくれている。

「大丈夫ここじゃ８時開演って書いたらみんなが集まってくるのは９時ぐらいだよ。」と言う。ホンマカイナ。

　８時半に会場入り。いわれたとおり誰も来ていなかった。３０分リハを行い、控え室で待機していると、本当に９時頃ポツポツと聴衆が集まってきた。で開演したのは９時半で演奏会場は満員だった。（つづく・・・・つづかなかったらゴメン）

　リオハでのコンサートが終了したのはほぼ１１時。その後打ち上げを兼ねた夕食会があり、それでお開きになるのかと思いきや「ゲンタローちょっと付き合え」ということで主催者のフアン・カルロスとその友人、僕の３人で車に乗り込んだのである。

　いろいろ３人でパブなどをはしごしてもう朝の４時だ。さあもう帰るのかと思っていたら、２人が車の中で何やら発声練習を始めた。「アーアーアーアーアー」オペラ歌手のような声量である。なんとこれからセレナーデを歌いに行くというのである。

　セレナーデ（夜想曲）というのは南米（ヨーロッパでも？）に古くからある習慣で、愛を告白するために夜中に自分の楽団を連れて彼女の窓越しに歌を捧げる習慣なのである。

メキシコなどでは楽団としてマリアッチのバンドを連れていったり、かなり騒々しい（こられたら迷惑？）。

で他の地域は知らないが、このリオハではセレナーデを受けたら寝ていようが、子供が泣こうが、母親が病気であろうが（笑）、セレナーデを歌ってくれた連中を家に招き入れ一杯招待するのが礼儀らしい。

というわけで、まずは手始めに女性の家ではなく、２人の友人を驚かそうということで彼の家の窓際に到着。当然道には人っ子一人、犬っ子一匹いない。

ギターを車から取り出し、（そういえば俺のコンサートなのになんでこいつは車に自分のギターをわざわざ入れるんだろう？と不思議に思っていたのだ。）

アルゼンチンのフォルクローレをオペラ歌手宜しく大音量で歌い上げる。パジャマ姿のまま眠そうに窓を開けて我々を見つけると、風習通り我々を迎え入れてくれてウイスキーを１杯ずつ招待してくれた。（この頃僕はほとんど眠っていたけど。）

一人目の成功に気を良くした主催者はかねて目をつけていた仕事の同僚の女性の家へと向かった。その子の家には行ったことがなかったらしく、住所のみで家を見つけた。

　「ここに違いない。ゲンタローやるぞ！」僕は眠い目をこすりつつ、車から降ろされた。今度は正真正銘女性の家の前である。歌声も先ほどより心なしか張りがあり、二人の歌声は絶好調である。さて曲が終わると静かに窓が開いた。そこに現れたのは・・・・。

そこに現れたのは口髭、あご髭をたくわえた強面のおにいさん。何を言われるのかとビクビクしていると「なんと素晴らしいセレナーデなんだ。

でも彼女のうちは隣だよ。」と全く素晴らしいとは思っていないことがありありと判るように無表情で言った。しかし懲りない２人はちゃんと隣の家の窓際でセレナーデを歌い終え、その頃にはもう空が白くなってきていた。

(このコラムは１９９７年に書かれたものです)